ボルダリング好きエンジニアの雑記帳

クライミング、ボルダリング、モノづくりについて情報が少ないなーと思った事を書いていきます。

【ボルダリング クライミングシューズ】スポルティバのP3システムの原理と効果を特許から解説する

スポルティバのクライミングシューズに採用されているP3システム。剛性が高まるとか、型くずれしにくいと言われますが、実際にどういう原理で、メリット、デメリットはどうなっているのか詳しい情報が少ないです。

元になった特許と、シューズの分解結果から真面目に解説してみます。

 

公式ページ

www.sportivajapan.com

 

情報が少ないです。トゥとアーチの形状を維持し、性能を維持するととのことです。

 図はありますが、具体的にどのような技術なのかは書いてありません。

 

特許の解説

元となる特許は、恐らく以下の物です。

EP0933033A2

https://patents.google.com/patent/EP0933033A2/ar

 

概要の要点

https://patentimages.storage.googleapis.com/EP0933033A2/00090001.png

 

重要そうなポイントは、以下です。

・ミッドソール(6)が、1つのラバーでヒールまで伸びて(6b)、ぐるっと回って自分自身にくっついている(6c)。

・アッパーの縫い目(シーム)(3)を、ラバーで覆う。

 

請求項の要点

 請求項には、細かい内容や付随する技術について書かれています。

・ソールはセパレートでなく、かかとまで伸びていても良い。

・ソールのゴムはアッパーまで伸びていても良い

・ソールのゴムは横まで回り込んでいても良い

 

なんと、ノーエッジの構想がこのときに書かれています。

 

 

いろいろ推測できること

特許の図がスリッパになっています。

部材の少ないシューズでもフィット感を高めることが意図されているようです。

かかとからの力を、アッパー側まで効率良く伝えられるため、ノーエッジとの相性は良さそうです。

もしかすると、スピードスターがこの構想の一つの到達点なのではないでしょうか。

 

P3システムだから型崩れしにくいというのは、若干怪しいと思いました。型崩れを防ぐ工夫は、縫い目の位置を工夫したり、アッパーを人工皮革にしたり、ラバーを貼ったり、シャンクの取り付けを工夫していることも効いているはずです。

程よい柔軟性を持たせるために余計な部材を減らし、柔軟性と頑丈さ、足のサポートのバランスをとるための工夫の一つなのでしょうか。

 

あと、P3システム採用シューズは、ヒールのゴムが薄くて幅広なので、個人差のあるかかとの形にフィットしやすいようです。

 

ゴムの部材も、ソールと違う素材で、靴の構造を作るのに適したものを選んでいるように見えます。フリクションはいらない箇所なのでこのへんはセンスが良いですね。

 

 

メリットとデメリット

メリット

P3システムのヒールループゴムが、かかとにかかる体重を、土踏まずを通してつま先にしっかり伝えてくれます。

型くずれの原因となる、部材の継ぎ目が少なくなり、アッパーの縫い目も自然に隠せるので、耐久性が上がります。

靴の形を作る、P3システムのゴムと、ソールの素材を変える事ができて、シューズを設計し易くなっています。

かかとのゴム部材の張り合わせが少ないので、足を動かしたい時に程よく伸びるとも書いてあります。

 

デメリット

P3システムのヒールループゴム(スリングショット)が、つま先まで伸びています。このゴムの分足裏は厚くなるので、つま先と足裏の感覚は鈍くなりやすいはずです。

パイソンでは、足裏感覚を重視して採用を見送っていますし。また、マーベリック、フューチュラなどの、足裏感覚を重視するモデルは、その分ソールが薄くなっています。

足裏の感覚を重視する場合、ソールが薄い分穴は空きやすいと予想されます。

 

 

結論

特許なので、本当に効果があるかどうかは判断できませんが、スポルティバの技術者が何を考えているのか少し分かりました。

靴の剛性、適度な柔軟性、足の拘束、トゥからヒールへの荷重伝達のバランスを、うまくとるための答えの一つなのでしょう。

 

結局、履いてみてどうかが大事ですが、少しスッキリしました。

 

マーベリックを分解して、構造を確認しています。特許の内容とほぼ同じ形でスリングショットのゴムが足裏を覆っていました。

 

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